介護と生前整理|施設入居前後でのモノの整理術
介護施設への入居前は、生前整理を行う最適なタイミングです。その理由の一つは、元気なうちに自分の持ち物を整理しておくことで、残された家族の負担を大きく減らせるからです。もし何も整理せずにいると、万一自分が亡くなった後に、大量の家財や思い出の品を家族が整理しなければなりません。それは悲しみの中で大変な肉体的・精神的負担になります。
施設入居を機にしっかりと持ち物を見直し整理しておけば、そうした家族の負担を事前に軽減でき、まさにご家族への最後の贈り物にもなります。
また、生前整理をすることはご本人の心の整理にもつながります。長年の家財を丁寧に仕分ける過程で、自分の歩んできた人生を振り返り、節目として気持ちに区切りを付けるきっかけになります。
不要なものを手放せば、新しい生活への前向きな一歩ともなり、入居後の余生を安心して過ごす助けにもなるでしょう。部屋が片付き気持ちがすっきりすると、介護施設での新生活への不安も和らぎ、「これで大丈夫」という安心感を得られるはずです。
ケアマネージャーと連携しよう
生前整理を進めるにあたっては、ケアマネージャーとの連携が重要です。担当のケアマネージャーは、介護保険サービスの計画作成だけでなく、ご本人とご家族の生活状況を総合的に把握し、「今どんな支援が必要か」を見極める専門家です。介護施設への入所準備に際して「何を残し、何を処分すべきか」悩んだとき、まず相談しやすい身近な存在がケアマネージャーでしょう。ケアマネージャーは実際に住まいの整理や家財の処分について多くの相談を受けてきており、施設ごとの事情にも精通しています。
そのため、入居先にどんな持ち物が必要か、逆に持ち込めない物は何かといった点について、具体的なアドバイスをしてくれるはずです。
さらにケアマネージャーは、生前整理や福祉整理に強い専門業者を紹介してくれる場合もあります。
福祉制度上の支援(入所スケジュールの調整や行政手続き等)はケアマネージャーが、実際の片付け作業は専門業者が担うという形で役割分担すれば、ご本人・ご家族の負担を大きく減らせます。
一人で抱え込まず、ぜひケアマネージャーに相談しながら進めてみましょう。
持っていく物・持っていけない物
介護施設への入居準備では、新居に持っていく物と持っていけない物を仕分けする必要があります。限られた居室スペースで快適に過ごすため、何を持参し何を処分・保管するか計画的に整理しましょう。
ポイントは「必要最低限+お気に入りの物少々」に絞ることです。
ここでは、持ち込み品の選別方法について、具体的な例を挙げます。
入居先に持っていく物
まず持っていくべき物ですが、基本は日常生活に必要な実用品です。以下のようなものを確認・準備しましょう[9]。
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- 🧥 衣類・下着:季節に合わせて十分な枚数。施設から指定があれば従う。着脱しやすい服(前開きシャツなど)がおすすめ。
- 👟 履物:施設内用の室内履きと外出用の靴。滑りにくく履き慣れたものが安心。
- 🧻 タオル類:フェイスタオル・バスタオルを多めに(洗濯頻度に応じて)。
- 🪥 洗面・衛生用品:歯ブラシ、石鹸、爪切り、ヘアブラシなど。共用不可の身の回り道具は必ず持参。
- 💊 医療関係:お薬・お薬手帳・診察券・保険証類(健康保険証、介護保険証、障害者手帳など)。すぐ取り出せるように準備。
- 🗄 収納用品:居室に収納が少ない場合は、衣装ケースや小さめの整理ダンスを持ち込み。事前に収納スペースを確認。
- 👓 その他日用品:眼鏡・補聴器・ティッシュ・おむつ・使い慣れた食器(湯のみ・箸など)。ご本人が使いやすい物を優先。
持ち物にはすべて名前を書いておきましょう。特に衣類は施設で共同の洗濯になるため、記名が必須です。
名前だけでなく、目印のシールを貼ると間違い防止に効果的です。こうしたひと手間で、持ち物管理の不安が減り安心です。
施設によってはベッドやタンス、椅子など基本的な家具は備え付けられていることが一般的です。
そのため、大型の家具は持ち込まず、上記のような生活必需品と身の回り品を中心に準備すれば十分でしょう。スペースに余裕があれば、写真アルバムや愛用の小物など思い出の品をいくつか持って行くのも良いですね。お気に入りの物が身近にあれば、新生活の中でも心の支えになります。ただし量が多すぎると荷物の管理が大変になるため、厳選することが肝心です。
持っていけない物・処分すべき物
次に持っていけない物、つまり持ち込み禁止・不適切な物についてです。
多くの施設では、安全や衛生の観点から以下のような物品の持ち込みが禁止されています。
🚫 入居先に持ち込めない物
- 🔥 火気類:マッチ・ライター・ろうそく等は持ち込み不可。
仏壇を持ち込む場合も線香やロウソクはNGで、LEDろうそくを利用。 - 🔪 刃物類:包丁やはさみなどは原則禁止。
必要な際は施設職員に依頼するのが安心。 - 💎 貴重品・高価品:宝石・高級時計などは盗難や紛失の恐れがあるため持ち込みを控える。
代わりに思い入れのある小物を持たせると満足度が高い。 - 🛋 大型の家具・家電:タンス・ソファなど居室を圧迫する家具や、電子レンジ・電気ヒーター等の危険家電は持ち込み不可。
テレビやポットは施設の規定を事前に確認。
仕分け時に迷う物は「保留ボックス」に入れておくと安心です。
時間をおいて気持ちが整理されると、要不要の判断がしやすくなります。
こうした持ち込めない物については、思い切って処分や整理を進めましょう。どうしても手放せない貴重品は、家族に預けたり実家で安全に保管する方法もあります。逆に「使わないけれど捨てにくい」という物は、専門業者に依頼して適切に供養・処分してもらうことも可能です(仏壇や人形などはお焚き上げサービスがあります)。
大切なのは、「施設で生活する上で本当に必要な物だけ」を手元に残すことです。そうすることで荷物が減り、施設スタッフによるお世話もスムーズになりますし、ご本人自身も身軽になって過ごしやすくなります。
実家の片付け
施設に入居すると元の住まい(実家)は空き家になるケースが多いでしょう。その住まいの片付けと資産の管理についても早めに方向性を決めておくことが大切です。
まず、ご家族と一緒に今後の実家の扱いについて話し合いましょう。たとえば「長期入居で帰宅の見込みがない場合、家をどうするか?」という点です。
⚠️ 空き家を放置するリスク
- 💰 維持費の負担増:誰も住まなくても電気・水道・ガスの基本料金や固定資産税・都市計画税、火災保険料などは発生。
換気・手入れを怠ると劣化が進み、修繕費も増加。年間維持費は50~100万円といわれる。 - 🏛 行政上のペナルティ:「特定空き家」に指定されると固定資産税の軽減措置が外れ、税額が最大6倍に。
最悪の場合、行政代執行による強制解体のリスク。 - 🔓 防犯・近隣トラブル:空き家は空き巣や不法侵入の標的になりやすい。
放置された庭木や老朽化で隣家や通行人に被害を与える恐れ。害虫・悪臭など衛生問題も発生。 - 📉 資産価値の下落:管理されない空き家は急速に価値が低下。
売り時を逃すだけでなく、老朽化で「負動産」となり次世代の負担に。
以上のようなリスクを踏まえると、空き家はなるべく早く活用法を決めるのが賢明です。
家族への引き継ぎメモとエンディングノートの活用
最後に、整理した情報や想いを「家族への引き継ぎメモ」として形に残しておきましょう。市販のエンディングノートを活用すれば便利です。エンディングノートとは、自分に万が一のことがあった際に備えて、財産や契約、連絡先、希望する医療・介護、葬儀の方法などあらゆる事項を記しておくノートのことです。
法的効力はありませんが、残された家族が困らないように情報やメッセージを伝える役割を果たします。
生前整理を経て、「自分には何がどれだけあるか」「大切なものは何か」が把握できたら、その内容をまとめてノートに書き込みます。具体的には次のような項目を整理しておくと安心です。
📒 エンディングノートに書いておくべき内容
- 💰 財産目録:現金・預貯金・証券・不動産・貴金属などの一覧と保管場所。
通帳・権利証・実印など重要書類の所在も明記。 - 📑 各種契約リスト:契約先と連絡先を一覧化。
解約済には「解約済」と注記し、継続中は解約・名義変更方法を記載。 - 💻 デジタル情報:スマホやPCのロック解除パスワード、主要オンラインサービスのID・パスワード。
SNSやメールアカウントを「残す/削除」希望も添えておく。有料サービスは解約情報を明確に。 - 🩺 保険・年金情報:保険証券番号や問い合わせ先、公的年金以外の企業年金・個人年金の連絡先。
- 🏥 医療・介護の希望:延命治療や臓器提供の意思、介護方針(在宅介護 or 施設など)。
施設入居中なら病状変化時の希望も明記。 - ⚱️ 葬儀やお別れの希望:葬儀の規模・宗教形式・墓の希望や形見分け。
こだわりがなければ「簡素で良い」と伝えてもOK。 - 💌 家族へのメッセージ:感謝や想いを記す。
手紙形式でも、ノート内の所定欄でも良い。
おわりに
施設入居前後の生前整理について、重要なポイントを見てきました。初めは「やることが多くて大変そう」と思われるかもしれません。しかし、一つひとつ進めていけば必ず終わりは見えてきます。整理を終えて身軽になれば、きっと「整理してよかった」と心から感じられるでしょう。
生前整理を通じてご自身の人生を振り返り、大切なものを選び抜くことで、残りの人生をより有意義に、そして安心して過ごす土台ができます。家族もまた、事前に準備が整っていることで余計な心配が減り、あなたとの時間を穏やかに共有できるでしょう。生前整理は決して寂しい作業ではなく、これからの人生を前向きにするための準備です。
介護施設という新たな生活の場へ踏み出すあなたが、少しでも晴れやかな気持ちで門出を迎えられるよう、本記事のアドバイスがお役に立てば幸いです。困ったときは周囲の人や専門家の力を借りつつ、無理のない範囲で進めてください。
生前整理を終えた後には、きっと心にぽっと灯りがともるような安心感が得られることでしょう。